むち打ちと因果関係(他の素因が競合した場合)
他覚的所見がないのに自覚症状を訴えて長期にわたり治療を継続した場合など,事故との相当因果関係が争いになることが少なくありません。また,過去の病歴、既往歴、病的素因、特殊な体質的素因、加齢的要素,心理的要素などの素因が競合した場合、損害の全部を加害者に負担させることができるか否かが問題となります。
(1) |
過去の病歴,既往歴,病的訴因 |
(2) |
特殊な体質的訴因 |
(3) |
加齢的要素 |
(4) |
心理的要素 |
実務での考え方
他の素因が競合した場合の対応は,裁判実務上も対応が分かれています。事案にもよりますが,大きく分けて,こういった事情を考慮しない場合と考慮する場合に分かれます。考慮する場合には,事故との因果関係自体を否定したもの,割合的認定をしたもの(賠償額を割合的に減額する)に分かれています。
裁判例
因果関係を認めなかった例 |
頚椎にはレントゲン検査による所見に異常がなく,脳にも外傷に起因する器質的障害がなく,頚椎運動や腰部運動時の頸筋痛及び左側腰部筋痛は日常生活でも容易に起こりうる程度のものであり,また頸部痛,頭重感,身体のしびれは賠償神経症の範疇に入るものと鑑定された場合に,右身体の不調と事故による頭部外傷との因果関係を認めなかった(仙台高判昭和57年3月10日) |
割合的認定をした例 |
むち打ち症について,重大な器質的損傷を伴うものではなく,自覚的愁訴を主とする心因性の強いものであり,この愁訴が永続するのも心因的要素の強い自律神経失調症が事故によって誘発されたことが一つの原因となっているとして,右各心因的要素の発現自体が事故によって招来されたことを考慮して,むち打ち症の後遺障害に対する事故の寄与率として80%とした(横浜地判昭和58年4月22日) |