むち打ちとは
「むち打ち」とは,頸部に急激に外力が加わることによる鞭打ち運動を原因として頸部筋、項部筋の筋繊維の生理的可動域を越える過伸展、過屈曲が生じたことによって現れる種々の症状(症候群)を総称したものをいいます。
むち打ちとは,正確な医学用語ではなく,様々な病態を含んだものです。その多くは,頚椎捻挫(外傷性頚部症候群)ですが,椎間板損傷,神経根・頚髄等の損傷も含まれます。
むち打ち症の特色
むち打ちの症状は多種多様で,頭痛、頸部肩痛、肩こりを主訴とし、それらの痛みは気圧や湿度の変化に敏感であることが特徴として挙げられます。また、この他に、上肢のしびれ感、めまい、視力低下、視野狭窄、目のかすみ、耳鳴り、難聴などの症状や、根気や集中力低下などの症状を訴えるケースもあります。また、受傷直後に症状が現れず、2、3日後あるいはそれ以上の期間経過後に症状が現れることもあります。
しかし,このような自覚症状にもかかわらず,レントゲン検査,脳波検査等の結果に現れる他覚的所見に乏しいのがむち打ちの特色です。医学上,その病理・病態は未だ明らかになっているとはいえず,客観的判定がしにくく,治療にも困難を伴うことが少なくありません。
むち打ちは裁判に発展することも珍しくない
交通事故後,被害者が自覚症状として種々の症状を訴える場合であっても,他覚的所見に乏しい場合には,損害賠償が認められるか否かが問題となるケースは少なくなく,むち打ちを巡る裁判例も多くあります。
むち打ち症の認定
むち打ち症の認定が困難であることは前述の通りですが,保険実務上,その有無と程度を判断するに当たっては以下のような事項が考慮されます。
(1) |
追突衝突自体の衝撃の程度、及びそれが身体に及ぼした程度 |
(2) |
追突衝突の態様(速度、向き等)、被害者の姿勢(被害者が追突衝突を予想して身構えていたか否か)等 |
(3) |
症状発現の経過とその変遷、当初の医師の診断及び治療経過等 |
むち打ちと診断されたら
むち打ち損傷の診断にあたっては、問診や触診、X-P(レントゲン)などの検査から、診断されます。しかし,むち打ち症は,他覚的所見に乏しいことから,後遺障害等級認定において,等級認定を得ることが非常に難しいのが現状です。むち打ちと診断された場合は後の後遺障害等級認定にそなえて、ジャクソンテスト、スパーリングテスト、反射検査、知覚テストなどによる神経学的検査、X-P(レントゲン)やCT、MRIなどによる画像診断などにより、できる限り早い時期に総合的な検査を受けておくべきでしょう。電気生理学的検査、平衡神経学的検査やSPECTなどによる補助診断が重要となることもあります。
打ち切りの場合の対応
本来、むち打ちに必要な治療費は全て加害者側が負担すべきものであります。しかし、任意保険会社は、むち打ちについては、一般的に3か月程度(長くても6か月程度)で症状固定となるから。」と治療費の支払いを打ち切ってきます。
その段階でまだ治療が必要なとき、被害者としては、担当医に治療継続の必要性を記載した診断書の作成をしてもらい保険会社に提出するなどの対応が必要となります。
また、不当な治療費の支払打ち切りに対しては、支払いを仮に求める仮処分などの手続きを利用することもあります。