過失相殺とは
加害者による不法行為がなされた場合に被害者から加害者に対し損害賠償請求ができますが、被害者にも過失があった場合には、損害の全額を加害者に賠償させるのは公平ではありません。不法行為は損害の公平な分担を理念としていますので、このような場合には、過失相殺といって、被害者の過失の割合により、損害賠償額が減額されることになります。
具体的には、交通事故により1000万円の損害が発生したとしましょう。このうち、加害者の過失が8割、被害者の過失が2割とされた場合には、被害者としては、800万円の損害を賠償できることになります。
損害の合計 |
被害者の過失割合 |
被害者の請求可能額 |
1000万円 |
20% |
800万円 |
不法行為における過失相殺については、過失相殺するか否かまたどの程度斟酌するかは裁判官の自由裁量に委ねられていますが、損害額が多大な交通事故においては、過失相殺によりその賠償額が大きく異なることとなるので、一定の客観化の試みがなされています。つまり、交通事故において、どの程度過失相殺されるかについては、一応の基準があるのです。具体的には、平成9年に改定された東京地方裁判所の裁判官が作成した基準(別冊判例タイムズ「民事交通訴訟における過失相殺等の認定基準」)をはじめ日本弁護士連合会の基準やその他の基準が発表されており、裁判でもこれらの基準が目安となっています。
過失相殺能力
では、過失相殺はいかなる場合にも認められるのでしょうか。例えば、3歳の幼児が飛び出して車に轢かれたとしましょう。この場合、3歳の幼児も飛び出したので過失相殺の対象となるかです。
過失相殺は、被害者の損害の公平な分担を図る制度ですから、3歳の幼児に損害の分担を求めるのは妥当ではないのではないでしょうか。過失相殺には、過失相殺能力が必要とされており、損害の発生を避けるのに必要な注意能力が必要となります(事理弁識能力)。判例によると、だいたい7歳くらいから過失相殺能力を有するとされています。よって、被害者が3歳児の場合には、この幼児の飛び出しについては、過失相殺をすることはできないということになります。
被害者側の過失
もっとも、幼児自体に過失相殺を認められないとしても、幼児の親には自分の子供が飛び出さないように監督する義務があるのではないでしょうか。よって、その親の監督義務違反が認められるにもかかわらず、交通事故の損害をすべて加害者に負わせるのは妥当ではありません。過失相殺は、損害の公平な分担を理念としています。とすると、幼児とその母親は同一の家計ですし、母親の監督義務違反を幼児側の過失として過失相殺することが損害の公平な分担に合致するのではないでしょうか。このような考え方を被害者側の過失といいます。判例においても、「被害者と身分上ないし生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者の過失」ある場合を被疑者側の過失として過失相殺の対象としております。先の事例では、幼児とその母親は、身分上ないし生活関係上一体をなしていますので、幼児の母親の監督義務違反が斟酌され、結果として過失相殺されることとなります。
なお、被害者側の過失として判例で認められているものとして、夫婦や幼児の両親があります。なお、「被害自動車の運転手とこれに同乗中の被害者が事故の約3年前から恋愛関係にあったものの、婚姻していたわけでも、同居していたわけでもない場合には、身分上、生活関係上一体をなす関係にあったということはできない。」というのが判例です。
過失の認定
過失割合の認定にあたっては、事故直後に作成された(事故現場の見取図、実況見分著書等の刑事記録が重要な役割を果たします。この刑事記録は、警察が作成するものなので、事故が起きたら直ちに警察へ連絡することが重要です。
また、可能であれば、自身でも事故状況を記録し、目撃証言や相手の事故直後の言動を記録しておきましょう。
過失相殺の具体例
(1)過失相殺を行うべき過失の類型
過失相殺を行うべき「過失」には、大きく、①「事故の原因となった過失」と②「損害発生・拡大に寄与し過失」とに分類できます。
(2)具体例
過失の類型 |
具 体 例 |
①事故の原因となった過失 |
被害者が信号が赤になっているにもかかわらず道路を横断した |
②損害発生・拡大に寄与した過失 |
ヘルメットを着用せずにオートバイを運転した際に交通事故被害に遭い、頭部を負傷した |